色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

rain一週間程前、高校時代の友人と久しぶりに再会した。
その日は、朝から空は灰色の雲に覆われ今にも雨粒がポツポツ落ちてきそうな天気だ。それに空気も冷たい。

案の定、電車を乗継ぎ待ち合わせした場所に到着する頃には、冷たい雨が降ってきた。

電車から降りると、友人が一足先に駅のホームにあるベンチに座っている。

久しぶりだね、とお互い笑顔で挨拶を交わすと、そのまま予約しておいた近くのレストランへ歩いて向かった。天気が良ければ海が一望できたのに残念・・そんなことを思いながら窓側に用意された席に腰掛けた。

窓から望む景色は空と海の境目もなく、遠くにヨットが10隻ほど見える。

ふと、友人のバッグから覗いていた本に目が留まった。

村上春樹の話題作、色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年。

”昨日、アマゾンから届いたの。本屋さんに行っても売り切れだったから。”
”私も読もうと思ってる。”
”明日には読み終わるから読んだら送ってあげる。”
”本当?じゃ、気長に待ってる。”

そして、昨日届いた。アマゾンからだったので友人に尋ねたところ、読むのにまだ時間がかかりそうだから新品を送ったとのことだった。 ”もうすぐ、誕生日でしょ。”

ページをめくり始めると、その中には自分の馴染みのある地名や固有名詞が必要以上にでてきて少し驚いたが同時に臨場感が増し、当たり前だが、自分とは一切接点がない主人公である多崎つくると彼を取り巻く色彩をもつ登場人物たちの心情、心像とその間にある特定のアクセント(リスト・巡礼の年や六本の指、こびと)によってどんどん引き込まれてあっと云う間に読み終えてしまった。

生きていれば誰もが一度は体験するであろう、つくるが感じた外界から遮断されてしまったような恐怖心。

闇から光へ、彼の巡礼の年。

”誰かに突き落とされたのか、それとも自分で勝手に落ちたのか、そのへんの事情はわからない。でもとにかく船は進み続け、僕は暗く冷たい水の中から、デッキの明かりがどんどん遠ざかっていくのを眺めている。船上の誰も船客も船員も、僕が海に落ちたことを知らない。まわりにはつかまるものもなにもない。”

”深い森に迷いこんで、悪いこびとたちにつかまらないうちに。”

つかまらないうちに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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